ちらしのうら

感情の言語化をめざして

働く女

よく働いていると思う。平均して21時に仕事を終え、22時に帰宅し、家事をこなし、気がつけば寝る時間になり、寝て、起きて、また働いている。今、悩んでいることがある。

 

悩んでいるのは本業の仕事のことではない。昔は「もっと自由でクリエイティブな仕事がしてみたい」と思っていた。今思うと自由でクリエイティブな仕事ってなんやねんと思う。具体的なイメージがなかった。ただ、今の職場に転職して学んだことは、クリエイティブというものは、ごく一般的な事務仕事においても求められるものであり、ちょっと工夫することで誰かが楽になれたりすることがわかって、仕事内容にこだわりや不満がなくなった。非効率な業務はこの1年で効率化を図ってある程度うまくいったし、給料もそこそこ、人間関係も良好で、うまくいっている。だからこそ、別のことに目が向く。

 

今、わたしは芸術大学の入学出願ページを見て、オンライン説明会に参加し、3年次編入するかどうかを悩んでいる。悩んでいる間に、明日は一次締切だ。大丈夫、チャンスは後2回ある。

 素直な気持ちを述べると、メチャメチャ入学したい。絵を描くことを追求したいし、今より表現力を身につけたいし、物を正しく見れるようになりたいし、知らないことを知りたい。でも、だ。悩むのは、入学したその先、どこに向かっていくのか?ということだ。趣味で描き続けるのか、仕事にするのか。正直なところ、趣味では物足りなさを感じている。ただ、仕事にするのか?と聞かれると、グッと踏みとどまる。

 

「音楽で世界は変わらないけど、誰かに寄り添うことはできる」

 

これはだいすきな星野源さんの言葉だ。この悩んでいるタイミングで「創造」がリリースされ、星野さんの創作活動の話を頻繁に聞くようになった。過去に執筆された本などにも創作への姿勢が綴られており、そのひたむきさと真剣さに胸を打たれる。

もっといろんな人に自分の音楽を聴いてほしい、だけどそれが迎合するものになっていないか立ち止まって考え、自身が発信したいものを創造する。そんな姿勢がすきだし、共感する。

 

音楽で世界は変わらないけど、誰かに寄り添うことができる。実体験的にも共感する。この言葉を聞いて考えた。じゃあ絵はどうだろう。 

わたしは絵を描くし、絵を見ることがだいすきだから、幼い頃から美術館に連れて行ってもらっては、あまりの美しさに、作品の前で号泣することが多々あった。そんな子どものまま大人になってしまったから、絵に救われたことが幾度もある。

 

でも一般的にはどうだろう。音楽を聴かない人もいると思うけど、一枚の絵というものを注意深く見る人がどれくらいいるだろう。音楽を聴く人よりずっと少ないと思う。グラフィックは街にこんなにもあふれかえっているのに、だれも足を止めず、ただ前を見て目的地に向かって歩いているだけで、絵は景色だ。

 

わたしにとって絵を描くというのは、現時点では自己表現のひとつ(コミュニケーション)というのが大きく、それ以上でも以下でもない。ただ、ひたすらに楽しいのだ。

だけど、現状に物足りなさを感じているのは、依頼を受けて、限られた範囲の中でいいものをつくるという経験をしてみたいという気持ちが少しずつ湧き始めているからだと、最近気づいた。絵を見てほしい!って思ってる自分がいることにようやく気づいた。だけど、絵を仕事にすることを踏みとどまるのは「絵を見てくれた人にわたしはなにができるのか(なにができたのか、あるいはどんな影響を与えれるのか)」がハッキリとわからないからだ。コミュニケーションだと思っているからこそ、景色になったら悲しい。

 

絵は世界を変えることもできないし、誰かに寄り添うことも、もしかしたらできないのかもしれない。多くの人にとって絵という媒体は景色としてしか存在できないのかもしれない。それをわかったうえで、どうやって絵に向き合えばいいんだろう?

 

何事にもおいてもそうだけど、どうも自分自身と対話をするのが得意なほうらしく(一人っ子ならではかもしれない)いろんなことに気づいてしまう。気づかなければ楽だったのになあっていつも思う。いまもそうだ。でも気づかないフリをして自分を欺くのは嫌だ。本当はこんな拙くまとまりのない文章を書いているこの時間も、全部絵を描く時間にしたい。でも、それがどうしてもできないくらいには、立ち止まって、真剣に考えている。どうしよう。答えが出るのかもわからないぞ。

 

来年には30歳になる。わたしの人生を飛行機で例えるなら、搭乗時間が終わり、ようやく滑走路を走ろうとしているところだ。大空に旅立つために10代、20代を生きてきた感覚がある。飛行機は前進しかできないらしいから、飛び立ったらもう後ろには決して進めない。だから後悔しないように、いろんなことを一生懸命考え、たまには直感に身を任せて、そのときのベストの選択をしたいなと思う。

 

 

話は脱線するけど、最近星野さんの「働く男」を常に持ち歩いている。この本はちょうど星野さんがわたしと同い年くらいの頃に書かれたエッセイが載っている。今生きてる星野さんがだいすきなので、本を読んでいると「この星野さんは星野さんだけど、やっぱりすごく変わったんだなあ」と感じる。

でも、星野さんがわたしと同い年の頃、どんなものを見聞きして、考えていたかという思考を知れるのが嬉しいし、特定の人がいつ、どんなことを考えて生きてきたかを文章でたどりながら知る時間は(自粛期間で人と会えないということもあって)すごく豊かな時間だ。絵を描くことについてこんなに考えるようになったのも、星野さんの影響によるところが大きいと思う。星野さん、いつも刺激とあったかい愛をありがとう。

 

 

働く男 (文春文庫)
働く男 (文春文庫)
  • 作者:星野 源
  • 発売日: 2015/09/02
  • メディア: 文庫
 

 

 


星野源 – 創造 (Official Video)