ちらしのうら

感情の言語化をめざして

21時のシンデレラ

初恋か、その次にすきになった人だった。当時、小学6年生だった私にはませた年頃の女子らしく、同じクラスにすきな男の子がいた。その子は決してハンサムではない。かといって不細工でもない。モテるタイプでもなかった。背が低くて、髪型も丸刈りだったし、体型もぽっちゃりしていたし、色黒だった。けれど、野球が得意で(勉強もそこそこできた)、人一倍正義感が強く、たくましく、言いたいことを素直にハッキリ言える子だった。幼い私にでもわかるくらいには、周囲の人にも気を遣っていた。そんな彼は老若男女問わず、誰からも好かれていたし、人望が厚い少年だった。

彼とは同じクラスだったので、班が同じになればよく話をしたし、掃除当番に一緒に当たれば、やあやあ掃除の文句を言いながら箒とちり取りを扱ったものだった。複数の友人と一緒に下校したりもした。当時、鋼の錬金術師がめちゃくちゃ流行っていた時期で、私が「面白いから読んでみて」と言った次の日には、彼は入手してくれていて、その世界観に共にどハマりしたものだった。

私と彼が住んでいたのは田舎の住宅街(5分もあれば家に行ける距離)。彼の家は犬と猫を飼っていて、次男の彼は週2回ほど犬の散歩の当番があった。夜20時。部屋のベランダに出ると、私の家の下に白くてかわいいマルチーズと一緒に彼がいた。遠い昔のことすぎて、どうして定期的にその時間帯にベランダ越しで会うようになったのか、全然思い出せない。でもあの時間の空気感が今でもしっかりと思い出せる。好きな漫画のこと、テレビの話題、クラスでのなんでもない出来事や悩み、家族のこと。20時から21時までのたった1時間だけの二人の時間が、無限に続けばいいのにと思うくらい心地よかった。